「『データで見るJR西日本2020』によると、芸備線東城ー備後落合間の2020年度の平均通過人員は9[人/日]である。よって、この区間の1日あたりの利用者数は9人である。」出典→*1
上の文章は正しいのでしょうか?それとも間違っているのでしょうか?
(※ただし18キッパーのような通過人員としてカウントされない客は無視します)
ある線区にどの程度の利用者がいるのかを表す尺度の一つに、平均通過人員というものがあります。通過人員とか輸送密度とか言われることもあります。昨今は鉄道会社が限界ローカル線の限界みを知ってもらうために積極的に公表することもありますが*2、その具体的な計算方法や意味合いが知られていないこともあるように感じます。せっかくなので復習がてらネットの片隅に書いてみました。
この記事では東京(とんきん)駅と新大阪(しんだいはん)駅を結ぶ「新幹線(あらみきせん)」の平均通過人員を求めていきます。途中各駅間の1日あたりの利用者数と駅間距離は以下のとおりです。
(狭義の)通過人員とは
※ここでは狭義の通過人員について述べています。登場頻度の多い(広義の)通過人員は次項の平均通過人員を指しています。本記事でも(狭義の)通過人員または駅間通過人員と明記されていない「通過人員」は「広義の通過人員=平均通過人員=輸送密度」を指します。
狭義の通過人員とは、隣同士の2駅間の1日あたりの輸送人員を指します。駅間通過人員とも言います。その2駅で乗降する必要はなく、ただ通り過ぎるだけの人もカウントします。
上の新幹線の場合、東京ー品川間の狭義の通過人員は7000[人/日]、名古屋ー京都間の狭義の通過人員は6000[人/日]です。
平均通過人員とは
前項を踏まえて線区全体の平均通過人員を求めたいと思います。「各駅間の(狭義の)通過人員の平均が平均通過人員!」と言いたいところですがもう一捻りする必要があります。
各駅間はそれぞれ距離が異なるため、(狭義の)通過人員にその駅間の距離を掛けて距離の差を加味しなければ適切な評価はできません。
この積はその駅間の「輸送人キロ(じんきろ)」と呼ばれ、その線区のすべての駅間の輸送人キロを足すと線区全体の輸送人キロになります。(人キロについての補足*3)
そして最後に線区の輸送人キロから線区全体の距離を割ると、「平均通過人員」が出てきます。一度掛けた距離をまた割ることによって、距離の異なる他路線と公平な比較ができるようになります。よって計算式はこのようになります。
これを一言で表すと、「線区1kmあたりの1日の乗車人員」となります。
先ほどの新幹線について計算すると、平均通過人員は8400[人/日]です。
完全に二度手間ですが(狭義の)通過人員もこの式で求めることができます。
上式を見ると、計算過程で距離を考慮しているにもかかわらず結果の単位にはそれが現れません。これも平均通過人員の概念を理解しづらい原因の一つかもしれません。
平均通過人員の求め方(別解)
平均通過人員の考え方は上述の通りですが、計算に用いる線区全体の輸送人キロの調べ方はいくつかあります。いずれもただの式変形なので本質は変わりませんが人によってはこちらの説明の方がわかりやすいかもしれません。
別解1 発着駅ごとの利用者数から求める
新幹線の乗降駅ごとの利用者数(と利用パターンごとの乗車距離)が下の表で表されるとします。この表から(狭義の)通過人員を出し、平均通過人員を求めることもできますが、各利用パターンごとに輸送人キロを求めてすべて足し合わせれば線区の輸送人キロが出てきます。これを線区の距離で割ることで平均通過人員を得ることができます。
鉄道会社が発表している(きっぷの発売実績をベースとした)通過人員は概ねこれに近い考え方で算出されていると思われます。
別解2 平均乗車キロから求める
山手線のような都市内の路線と石勝線のような都市間輸送を担う路線では、利用者1人あたりの移動距離が大きく異なることが考えられます。この平均を平均乗車キロと言います。この数字は上の表を変形させただけなので、平均乗車キロに線区全体の利用者数をかけると線区の輸送人キロが出てきます。これも同様に上の計算式に入れることで平均通過人員が算出できます。
輸送密度とは異なるもの・関係ないもの
(各線区の)利用者数・乗車人員
路線の利用者数と輸送密度は別の指標です。同じ100人の利用者数がいたとしても、みんな一駅で降りてしまう線区と長距離乗り通す客が多い線区では収支も体感的な乗り具合も大きく異なるでしょう。
ここまで読めば冒頭の正誤問題は×が正解だとわかると思います。
乗車率・混雑率
これらは輸送量(お客さんの数)を輸送力(電車の本数、長さほか)で割ったものです。輸送密度は輸送量のみを論ずる尺度のため、車内がどれくらい混んでいるかは関係ありません。お客さんの少ないローカル線でも通学ラッシュは満員なのがその好例です。
線区の営業キロ
計算式の通り平均通過人員は線区全体の営業キロを割って距離の影響を排除しているので、路線の長短は直接通過人員に影響を与えることはありません。
ただし一般的に東北本線のような長大路線は閑散区間を含むため、「路線全体の」通過人員は閑散区間に引っ張られて伸び悩む傾向にあります。これでは各地域ごとの性質が正しく見えないので、正式な路線名称にとらわれず利用実態に合わせた「線区」に小分けして算出することが多いです。
まとめ
昨今のコロナ禍を受け、社会的使命を終えている(と言われても仕方のない)ローカル線の存廃問題が急浮上しつつあります。その際、「(たとえ赤字であっても)残す価値がありそうかどうか」を大まかに示す尺度として輸送密度が使われることが多いです。
ニュースに説明なく出てくる輸送密度という数字の意味を知ることで、それらローカル線の将来についてより有意義に考えられるのではないでしょうか。
*1:https://www.westjr.co.jp/company/info/issue/data/pdf/data2021_08.pdf
*2:JR四国:https://www.jr-shikoku.co.jp/04_company/company/kukanheikin.pdf
JR北海道:https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/region/pdf/jyoukyou/transition.pdf
JR東日本:https://www.jreast.co.jp/rosen_avr/
*3:1 [人キロ]は「旅客1人を1キロ運ぶ輸送量」ということになります。貨物業界でも旅客1人を貨物1トンに置き換えた「トンキロ」を用います。国鉄のような客貨兼業の事業者だとまれに人キロとトンキロを単純に足した「人トン」を使うことがあります。