くろログ

【未来の東武野田線?】新京成が減車に踏み切った切実な理由②終

前編はこちら↓

kurobo0408.hatenablog.com

 

(あらすじ)

日本全体の地価が上昇し、手が届く価格の土地を求め千葉都民が郊外へ入植し続けていた時代は新京成沿線の人口も着実に増加していきました。このころの新京成はまともな他社線連絡駅が路線の両端にしかなく、沿線の千葉都民は松戸か津田沼まで新京成に乗り続けるほかありませんでした。

 

 

ドル箱に風穴を開けた東葉高速開業

そんな状況に劇的な変化をもたらしたのが1996年(平成8年)4月27日の東葉高速線開業です。従来鎌ケ谷、習志野エリアの都心通勤客は新津田沼JR総武線または営団東西線直通電車に乗り換えるのがメジャーでしたが、都心へのバイパスルートができたことで北習志野から旅客が流出するようになりました。

 

駅間通過人員の変化

以下に東葉高速開業前(平成7年)と開業後(平成12年)の新京成線駅間通過人員のグラフを示します。データは第8回、第9回の大都市交通センサス「駅別発着・駅間通過人員表」の定期券、普通券の上下線通過人員を単純に足し合わせたものです。

「駅間通過人員(=通過人員、輸送密度)」の意味は以下の記事↓をご覧ください。

kurobo0408.hatenablog.com

図1. 東葉高速線開業前後の新京成線通過人員の推移

平成7年(赤)と平成12年(青)を見比べると東葉高速線に旅客が流失した津田沼ー北習志野間の通過人員が25%近く減少しているのがわかります。線内で最も利用の多い区間津田沼口から松戸口に変わってしまっています。

固定費割合の非常に大きい鉄道経営において5年(おそらく実際はもっと短期間)で25%もの利用減は致命傷になりかねません。

 

習志野駅の利用状況の変化

図2. 京成津田沼→松戸方面の駅別発着人員推移

図2は同表から算出した松戸方面行きの駅別発着人員(定期券、普通券の合計)の推移です。ざっくり意訳すると、「松戸方面行き電車の各駅での乗降人員」を表します。赤線と橙線(平成7年)または青線と緑線(平成12年)を見比べて、赤/青線が高い駅は乗車が多く、橙/緑線が高い駅は降車が多いことになります*1

平成7年時点の北習志野駅では松戸行き電車に乗る人よりも降りる人のほうが多く、「都心(JR等)津田沼/新津田沼新京成)北習志野(バス)」の流動が多かったと想像できます。しかし平成12年には降車が減る一方乗車が激増し、東葉高速線乗り換えのために乗降入り乱れる駅となってしまっています。

 

津田沼/津田沼駅の利用状況の変化

対都心の乗客が東葉高速に逸走したことで、新津田沼駅津田沼駅の乗り換え客も大きく減少しました。

大都市交通センサスの「ターミナル別乗換え人員表」では、掲載されているターミナル駅での定期客の乗り換え動向を知ることができます。

平成7年調査では、新京成線(松戸~前原)からJR総武線東京方面(快速、緩行、東西線直通の合計)への乗り換え客は37054 [人/日]、うちピーク1時間*2に16354 [人/日]を数えています。しかし東葉高速開業後の平成12年調査では同方向の乗り換え客は25671 [人/日]、うちピーク1時間*3は11824 [人/日]に激減しています。

津田沼に到着する東西線直通電車。東葉高速開業までは土休日にも津田沼直通があった

かつて津田沼駅はJR千葉支社管内第2位の乗車人員を誇っていましたがこれ以降乗車人員は横ばいとなり、コロナ前まで増加を続けた船橋駅、千葉駅に追い抜かれてしまいました。乗り換えのための人通りの減少は商業にも影響を及ぼしたのか乗換導線上にある丸井津田沼*4が2007年に閉店、津田沼パルコも2023年2月閉店を発表しています。

 

まとめ:新京成が減車に踏み切った理由

新京成電鉄東葉高速鉄道開業による津田沼口の急激な減収に加え、新鎌ヶ谷から北総開発鉄道への流出、郊外人口の伸び悩みなどによって全線で緩やかに減収傾向が続くようになりました。前編でも述べたように固定費割合の高い鉄道事業で(津田沼口の)旅客25%減は致命傷になりかねず、これ以降新京成はスリム化、合理化に邁進することとなります。

「最混雑区間の利用が25%減ったんだから両数も25%減でいいよね!」…と中の人が考えていたのかはわかりませんが、8両運転の中止はジリ貧となった新京成が繰り出した切り札の一つだったのだと思います。

 

おまけ:減車以外の新京成のスリム化

こちらのブログ(ジオシティーズアーカイブ)によると、新車投入の中止(8900形*5をさらに増備し800形を他社に譲渡する計画があったらしい)、無人ラッシュ時間帯の減便など様々な合理化が行われたことがわかります。

習志野原今昔物語「新京成電鉄の駅「無人化」を考える」

https://web.archive.org/web/20190314001543/http://www.geocities.jp:80/narashinohara_ta/report/shinkeisei/mujin.html

 

ゆとりダイヤも合理化施策だった?(憶測)

(またこれは根拠0の私の憶測ですが、)2006年の京成直通と同時に行われたゆとりダイヤ(日中全線40分→44分)も動力費削減を目論んだ合理化の一環ではないかと想像しています。所要時間は1割増加しますが旅客の平均乗車距離は短くなっているため比較的悪影響は小さいはずです。

(ただしこれは鈍足化が念頭にあったのではなく、京成直通ダイヤを組む中でスジを寝かせる余地ができた結果*6の可能性があります。実際合理化といいつつ日中の運用数は増えていますし*7、現在も朝晩に所要時間が44分より短い列車が残っています。)

昨今のコロナ禍を受けて東急やJR東日本は無駄な加速を抑えることで動力費削減を目指しているようですが、上記の憶測が正しければ新京成はそれを10年以上先取りしていたことになります。

(参考)

toyokeizai.net

 

参考文献

大都市交通センサス(平成7年、12年、27年調査)

その他本文中に示した各記事

 

 

*1:津田沼や松戸など動向が明らかな駅で考えるとわかりやすいと思います

*2:7:30~8:29

*3:7:15~8:14

*4:大家は新京成なので不動産部門にもダメージが入った

*5:3編成で製造打ち止め

*6:津田沼周辺と千原線の単線区間の関係で京成側の時刻は現行パターン一択

②松戸側しかいじる余地がないが、松戸場面では直通は直通で、線内運用は線内運用で折り返す必要がある

→「片道40分のまま松戸6分折り返し」or「片道44分に寝かせて松戸18分折り返し」の2択からゆとりダイヤを選んだ?

*7:京成直通前は9~11運用(段落としの有無による)、現在は両側段落としで12運用(ほか京成線内走行分が実質2運用)